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税理士向け AI活用

会計事務所のAI導入、実際どこで外れるのか|開発側から見た3つの実測

2026.09.01・平澤 建

「会計事務所 AI」で検索すると、活用事例と未来予測の記事がずらりと出てきます。記帳の自動化、月次レポートの自動生成、問い合わせ対応。どれも間違っていませんが、実際に事務所へ入れるときに必要なのは「何ができるか」ではなく「どこで外れるか」の情報です。そこはほとんど書かれていません。

私たちは税理士事務所向けのAI経営支援ツール(taXel)を自社で開発しています。この記事では、その開発の中で実際に踏んだ失敗を3つ、数字つきで公開します。ツールを内製する先生にも、既製品を選ぶ先生にも、そのまま判断材料になるはずです。

結論:AIに文章を書かせ、数字はプログラムに計算させる

先に結論を書きます。会計事務所の業務でAIを使うときの分岐点は、「AIに数字を計算させているかどうか」です。計算までAIに任せた瞬間、事故の確率が跳ね上がります。数字はプログラム(あるいは会計ソフト)で確定させ、AIには「その数字をどう説明するか」だけを担当させる。この分離ができているかどうかで、実務に乗るかどうかが決まります。

以下、そう考えるに至った実測です。

実測1:AIの応答は速くない。1回の分析に約5分かかる

taXelでは、決算書から財務分析と提案を生成する処理を動かしています。この1回の処理で、AIに渡している情報量は約16,000トークン(日本語でおよそ1万字強)、返ってくるまでの時間は約5分です。

「AIなら一瞬」というイメージと、実際の体感はまったく違います。そして5分間、画面に何も出ないと、人は「固まった」と判断してもう一度ボタンを押します。押した分だけ処理が二重に走り、費用も倍かかります。実際に私たちはこれを踏み、進行状況を出す画面と、二重起動を止める仕組みを後から入れました。

導入判断に落とすと、こうなります。

実測2:数字は合っているのに、説明文がズレる

これが一番やっかいでした。AIが出す文章は読めるし、数字も画面上は正しい。それなのに、その数字の「呼び名」や「説明」が計算の中身とズレているという不具合です。

私たちは開発中の1日に、この型のズレを6件見つけました。実例を挙げます。

ズレの内容なぜ見つけにくいか
健全性の判定ラベルが、実際の判定式と違う基準で表示されていたラベルも数字も自然に見えるため、読んでも違和感が出ない
金額の単位表記(億/万)が、内部の値と食い違っていた桁が大きいほど、目視では検算できない
減価償却の一部の科目を集計から取りこぼしていた合計は「それらしい額」になるので、画面は壊れない
同じ指標を2ヶ所で別々に計算していて、片方だけ直っていた片方の画面では正しく、もう片方では違う値が出る

共通点は「動くし、画面も壊れない」ことです。だから目視のレビューを素通りします。エラーが出て止まってくれるバグのほうが、はるかに安全です。

顧問先に出す資料でこれが起きると、どうなるか。数字そのものは合っているので指摘されず、説明の言葉だけが間違ったまま社長に伝わります。気づくのは、社長がその説明を前提に判断を下した後です。

実務での対策

実測3:レビューは1周では終わらない。4周かかった

AIが書いた内容を1度チェックして「問題なし」と判断するのは、危険です。私たちは同じ機能に対してレビューを4周実施し、各周で新しい不具合が出て、合計6件、すべて実際の誤りでした。

なぜ1周で終わらないのか。修正そのものが、別の場所を壊すからです。1周目で指摘された箇所を直すと、その直し方が2周目の問題を生みます。そして自分(あるいはAI自身)が自分の直したものを見直しても、この型は捕まりません。

事務所の実務に置き換えると、AIが作った顧問先向けの資料は、作った人とは別の目が入る前提で運用するということです。AI導入で工数が減るぶん、確認の工程は減らせません。むしろ、確認だけは残す設計にしないと事故ります。

先生方から言われたこと:出力は「短く、絵で」

もうひとつ、ヒアリングで繰り返し出た話を書いておきます。ある税理士の先生から、AIが生成したレポートについて「数字の羅列より、科目を集約してグラフにしてほしい」「中小企業の社長に説明するなら、簡易化は必須」という指摘をいただきました。

AIは放っておくと、情報を足す方向に働きます。項目を網羅し、丁寧に説明し、結果として社長が読まない資料ができあがる。AI活用の失敗として一番多いのは、精度ではなく「長すぎて使われない」なのではないかと考えています。

私たちはこの指摘を受けて、月次レポートの前に「掴みの1枚」を置く構成に変えました。①いま何が起きているか、②だから何をすべきか、③そのために打つ手は何か。この3つだけを1ページに収め、詳細はその後ろに送る形です。

そして、工数が浮いた後の話

最後に、導入前に決めておいたほうがいいことを1つ。AIで作業時間が浮いても、それだけでは事務所の売上は増えません。

私たちは税理士の先生方に9件のヒアリングを重ねてきましたが、そこで一貫して出てきたのが「顧問料3万円の壁」でした。月額3万円前後の顧問契約では、記帳のチェックと申告書の作成で稼働が埋まる。踏み込んだ経営助言まで手が回らない。これは能力の問題ではなく、値付けの構造です。

AIを入れて記帳まわりの工数が減っても、その顧問料のまま助言の量だけが増えるなら、事務所の利益率はむしろ下がります。だから、導入とセットで決めることが1つあります。

浮いた時間で提供するものに、どう値段をつけるか。

これを先に決めてから導入すると、AIは「効率化ツール」ではなく「新しい商品を作る道具」になります。順番が逆になると、忙しさだけが変わらないまま費用が増えます。

まとめ:導入前に確認する3点

  1. そのAIは、数字を計算しているか。計算までAIがやっているなら、検算の工程を必ず残す。
  2. 処理時間と、待っている間の画面はどうなっているか。スタッフが使い続けられるかはここで決まります。
  3. 浮いた時間で何を売るか、値段は決まっているか。ここが空白のまま入れると、費用だけが増えます。

AIは、正しく線を引けば会計事務所の武器になります。線の位置は「計算」と「説明」のあいだです。

執筆

平澤 建(ひらさわ たける)

taXel 代表。中小企業向けにKPI経営の伴走支援とEC運用支援を行っています。 税理士の先生方へのヒアリングを重ね、いただいた要望をそのまま機能にする形でtaXelを開発しています。

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。記載した数値は自社開発における実測値であり、他のツール・環境での結果を保証するものではありません。筆者は税理士ではありません。

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