顧問料を上げる入口は、節税でも旅費規程でもなかった|ヒアリング10回で残った結論
2026.09.24・平澤 建
「顧問料 値上げ」で検索すると、出てくるのは交渉術と案内文のテンプレートです。事前通知・理由説明・代替案の三点セット、契約更新のタイミング、角の立たない切り出し方。どれも書いてあるのは「どう伝えるか」です。
ところが実務でつまずくのは、その手前です。「何を売れば、その金額が正当になるのか」。ここに答えているページが、ほとんど見当たりません。
私たちは税理士事務所向けのツール(taXel)を開発するにあたって、先生方へのヒアリングを10回重ねてきました。この記事では、その中で残った結論を書きます。売れる入口は、節税でも旅費規程でもありませんでした。
結論:入口は「未来の数字を作る代行」
先に結論です。
理由は3つ。①融資や補助金の場面で、現状維持の計画書は通らない。②その資料を作る作業は、税理士も社長も手を出したがらない。③だからそこだけが空いている。
2026年9月、私たちは2人の先生と、それぞれ別の日に、別の文脈で面談しました。事前にすり合わせたわけではありません。それでも2人が同じ結論を口にしました。「入口は未来の数字だ」と。1件なら個人の意見ですが、独立した2件が一致したので、これは制約条件として扱っています。
1. 節税と旅費規程を入口にすると、断られる
まず、やらないほうがいい入口の話からです。ヒアリングで明確に止められたのが、節税提案と旅費規程を入口の商品にする案でした。理由は2つあると説明を受けました。
理由1:税理士法の線引きに触れる
節税の助言は税務相談そのものです。外部のツールや事業者が「こういう節税ができます」と顧問先に直接持ち込む形にすると、線を越えます。事務所の側から見れば、自分の資格で守られている領域に、外から入られる構図になります。
理由2:職業上の矜持に触れる
こちらのほうが実務では効きます。節税は、先生方がすでにやっていることです。そこに外から「節税の提案をしましょう」と持ち込むのは、「あなたはやっていないでしょう」と言うのと同じに受け取られます。旅費規程も同様で、知らないから提案していないのではなく、顧問先の規模や運用体制を見たうえで出していない、というケースが大半です。
ここは、私自身が最初に外した点です。効果が分かりやすい打ち手ほど、先生方はすでに検討を終えています。入口に置くべきなのは「先生がまだ手を付けていない領域」であって、「効果が大きい領域」ではありません。この2つは違います。
2. なぜ「未来の数字」だけが空いているのか
では、なぜ将来の数字だけが空いているのか。3つの事情が重なっています。
事情1:作るのが面倒で、誰も好きではない
資金繰り表や業績予測は、決算書と違って正解がありません。前提を置いて、置いた前提を説明して、外れたときに説明を求められる。作業量の割に、間違ったときの居心地が悪い。だから税理士も社長も避けます。ヒアリングでは、この点を先生がはっきり言葉にされました。
事情2:融資と補助金の場面では、必ず要る
一方で、金融機関や補助金の審査では、将来の数字が必要になります。しかも「今年と同じ数字が続きます」という計画では通りません。売上が伸びる根拠、返済原資がどこから出るか、投資した資金が何に変わるか。これを紙にする必要があります。
つまり、需要は確実にあり、供給側の全員が嫌がっている領域です。値段がつく条件が揃っています。
事情3:社長の側は、税理士に相談したいと思っている
日本の中小企業では、社長が税理士を「会社の数字を一番知っている人」として見ています。だから未来の話も、まず顧問税理士に相談したい。ところが標準的な顧問契約には、その作業が入っていません。この期待と契約のズレが、そのまま空白になっています。
3. 「顧問料3万円の壁」を先に認める
ここで、避けて通れない構造を1つ書きます。ヒアリングで繰り返し出てきたのが「顧問料3万円の壁」でした。
月3万円前後の顧問契約では、記帳のチェックと申告書の作成で稼働が埋まります。踏み込んだ助言まで手が回らない。これは能力の問題ではなく、値付けの構造です。
ここから導かれる結論は、はっきりしています。助言だけを増やしても、事務所の利益率は下がります。浮いた時間で提供するものに値段をつける、が先です。順番が逆になると、忙しさは変わらないまま原価だけが増えます。
そして、値段をつける対象として一番通りやすいのが、先ほどの「未来の数字」です。過去の数字は顧問料に入っていると思われていますが、未来の数字は入っていないと社長も分かっています。だから別料金の説明が成立します。
4. 始め方:簡易な表を1枚だけ
ヒアリングでもう1つ強調されたのが、入口を重くしないことでした。
いきなり精緻な経営計画を作りにいくと、最初の1社で工数を使い切ります。そうではなく、簡易な表を1枚から始める。これは、すでに大手が長年かけて証明してきた入り方でもあります。中身が完璧かどうかより、毎月同じ形で出てくることのほうが、社長にとっては価値になります。
具体的には、この3つが載った1枚から始めるのが現実的です。
| 載せるもの | 粒度 | なぜこれか |
|---|---|---|
| 今後3〜6ヶ月の現金残高の見込み | 月次で、金額を1行ずつ | 社長が一番先に知りたい数字。ここが動くと会話が始まる |
| そのまま行った場合の着地 | 売上・粗利・営業利益の3行だけ | 「このままだとどうなるか」が無いと、打ち手の話に進めない |
| 打ち手を1つ打った場合の差 | 1案だけ。金額の差を明記 | 選択肢を並べると決まらない。1案に絞ると返事が返ってくる |
この1枚が、そのまま別料金の商品になります。「月次の報告に、来期の見込みを1枚足します。月◯円です」。この言い方なら、顧問料の値上げではなく、追加の業務の話になります。
5. 1件目の事例が、次の9件を連れてくる
もう1つ、ヒアリングで言われたことです。「1件目の事例が権威になる」。
顧問先に新しい商品を説明するとき、一番効くのは理屈ではなく、同じ商圏・同じ規模の会社で実際に使われたという事実です。だから最初の1社は、収益性より事例として語れるかどうかで選ぶほうが、結果的に早く広がります。
逆に言えば、全顧問先に一斉に案内する進め方は勧められません。断られた説明が積み上がるだけで、次に使える材料が残らないからです。
6. 言いにくさを、機械に肩代わりさせる
最後に、私たちがツールを作る中で気づいたことを書きます。
2026年9月、同じ画面を同じ日に、税理士の先生と、事業会社の営業職の方にそれぞれ見せました。反応はまったく違いました。営業職の方はすぐ具体的な話に進み、先生は動きませんでした。
これは製品の出来の問題ではなく、職業の性質だと考えています。税理士は「守り」を職務とする職業です。間違いを出さないことが価値の中心にある。そこに「攻めましょう」と言うツールを持っていくのは、本能と逆方向です。
一方で、独立した2人の先生から同じ言葉をいただいたことがあります。「AIが言っている、という形なら顧問先に出しやすい」。
これは、機械が人より賢いという話ではありません。言いにくいことを、自分の口から言わずに済むという話です。「御社は借入が重いです」「この経費は利益を圧迫しています」。顧問先との関係が長いほど、これは言いにくくなります。ツールが出した数字なら、先生は「こう出ていますが、どう思われますか」と横に立てます。
顧問料を上げる提案も、同じ構造です。「先生が値上げをお願いする」のではなく、「数字を見たら、この作業が必要だと出てきた」から入る。入口の形が変わるだけで、通りやすさは変わります。
まとめ:明日からの3手
- 節税と旅費規程を入口から外す。効果の大きさではなく、まだ手を付けていない領域を入口にします。
- 資金繰りの1枚を、1社だけ作る。現金残高の見込み・そのままの着地・打ち手1案。この3つだけです。
- その1社を事例として語れる形にする。2社目以降の説明コストが、ここで決まります。
値上げの伝え方を磨く前に、売るものを1つ決める。順番はこちらが先です。
執筆
平澤 建(ひらさわ たける)
taXel 代表。中小企業向けにKPI経営の伴走支援とEC運用支援を行っています。 税理士の先生方へのヒアリングを重ね、いただいた要望をそのまま機能にする形でtaXelを開発しています。
※ 本記事に記載したヒアリングの内容は、先生方のお名前・事務所名を伏せたうえで、いただいた指摘の要旨をまとめたものです。特定の事務所の成果を示すものではありません。筆者は税理士ではありません。業務範囲・料金設定に関する法令上のご判断は、所属税理士会等にご確認ください。
