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税理士向け 補助金

顧問先から補助金を聞かれたとき、事務所はどこまでやれるか|2026年施行の改正で変わった線引き

2026.09.09・平澤 建

結論から書きます。補助金の相談に対して事務所が取るべき形は、申請書類の作成代行を引き受けることではありません。①認定支援機関としての関与、②数値計画、③連携先への引き渡し、④採択後の税務――この4つで組むことです。そして④は、いまほとんどの事務所が値付けをしていない領域です。

「税理士 補助金」で検索すると、上位に並ぶのは事務所のサービス紹介ページと、社長向けに「税理士に頼むメリット」を説明した記事です。先生の側が知りたい「どこからが危ないのか」を書いたものは、ほぼ出てきません。2026年1月に制度が動いたばかりなので、なおさらです。

2026年1月1日、線の引かれ方が変わった

行政書士法の一部を改正する法律(令和7年法律第65号)が、2026年(令和8年)1月1日に施行されました。日本行政書士会連合会は2025年11月1日付の会長談話で、改正の趣旨を次のように説明しています。

ここで押さえるべきは、「税理士だから大丈夫」にはならないという点です。行政書士法19条1項は、他の法律に別段の定めがある場合を業務制限の対象外としています。税理士が税務書類を作成できるのは税理士法に定めがあるからで、補助金の申請書類は税務書類ではありません。資格の並びで自動的に許されるものではない、という構造です。

※ この記事は法令の解説ではありません。行政書士法・社会保険労務士法の解釈と、改正後の実務上の運用については、所属税理士会および各士業の専門家にご確認ください。筆者は税理士・行政書士ではありません。制度の一次情報は日本行政書士会連合会および総務省の公表資料をご参照ください。

もう1本、社労士法の線がある

補助金と助成金は、実務では混ざって語られますが、規制の根拠が違います。

主な所管申請書類の作成・提出代行
補助金
(ものづくり、持続化、事業再構築 等)
経済産業省・中小企業庁ほか官公署提出書類の作成にあたり、行政書士法19条1項の枠組みで判断される
雇用関係の助成金
(キャリアアップ助成金 等)
厚生労働省社会保険労務士の独占業務。税理士が報酬を得て代行することはできない

顧問先からの相談は、たいてい「補助金か助成金か」を区別せずに来ます。最初のヒアリングで、どちらの制度なのかを確定させる。これが事務所を守る最初の一手です。

では、事務所の持ち場はどこか

関与を全部やめる、という結論にはなりません。顧問先の数字を毎月持っているのは事務所だけで、これは他のどの士業も持っていない資産です。持ち場は4つあります。

① 認定経営革新等支援機関としての関与

補助金の制度によっては、認定経営革新等支援機関の関与や確認書の提出が要件・加点となるものがあります。すでに認定を受けている事務所であれば、ここは制度が正面から想定している立ち位置です。ただし「認定支援機関だから申請書類を作成代行できる」という意味ではありません。制度ごとに認定支援機関に求められる役割は公募要領に書かれているので、そこを毎回読むのが前提になります。

② 数値計画をつくる

事業計画の数値部分――売上計画、投資回収、資金繰り、労働生産性の伸び率――は、事務所が最も速く、最も正確に出せる領域です。過去3期の月次を持っているからです。

ここでの実務上の注意点を1つ。「数値の作成支援」と「申請書類の作成」の境目は、書面の作り方で変わります。成果物を申請書そのものの形で納品するのか、根拠資料としての試算表・計画表を納品するのか。事務所として、どちらの形で出すかを先に決めておいてください。

③ 連携先に引き渡す

申請書類の作成そのものは、行政書士(雇用関係助成金であれば社会保険労務士)に渡す。ここを内製しようとしないほうが、事務所の時間あたりの利益は上がります。

私たちが税理士の先生方へのヒアリングを重ねる中で、実際に出てきた要望がこれでした。「補助金申請の代行は、信頼できる先に送りたい」――やりたくないのではなく、工数が読めないのでやれない、という話です。

ここには構造的な理由があります。ヒアリングで繰り返し出てきた「顧問料3万円の壁」です。月額3万円前後の顧問契約は、記帳のチェックと申告書の作成でほぼ稼働が埋まります。補助金は公募要領の読み込みから採択後の実績報告まで工数の幅が大きく、顧問料の中に飲み込めない。これは先生の姿勢の問題ではなく、業界の値付けが持っている構造です。

④ 採択後の税務――ここが一番、値段が付く

見落とされがちですが、補助金は採択された後のほうが税務論点が多く、そして完全に税理士の領域です。

この④は、申請の成否と関係なく必ず発生し、しかも他の誰も代われません。申請代行の報酬を追いかけるより、ここを正面から値付けするほうが、法的な線の内側で、かつ再現性のある収益になります。

事務所として、線を1枚に書いておく

グレーゾーンで一番のコストは、案件ごとに判断が揺れることです。相談を受けるたびに考えていると、担当者ごとに対応が変わり、事故のリスクが残ります。1枚の紙で先に決めてしまうのが早い。

領域うちがやる/やらない報酬
制度の情報提供・使えるかの一次判断やる顧問料の範囲
数値計画の作成やる(納品形式を決めておく)スポット報酬
認定支援機関としての関与公募要領の定めに従う制度ごとに設定
申請書類の作成・提出代行やらない(連携先へ)—
雇用関係助成金やらない(社労士へ)—
採択後の税務・実績報告の経理設計やるスポット報酬

そして、この表をそのまま顧問先向けの説明文にしてください。「うちは①②④をやります、③は連携先の◯◯先生にお繋ぎします」と最初に言い切るほうが、顧問先の信頼は上がります。断りではなく、体制の説明になるからです。

連携先から手数料を受け取るかどうか

ここは事務所の方針が分かれる部分です。私たちがtaXelで連携先を設計するときに置いている原則を、参考までに書きます。

  1. 効果が確定するものだけ手数料を取る。採択されるかどうか分からない段階の紹介で手数料が動くと、顧問先の利益と事務所の利益がずれます。
  2. 顧問先に開示できない条件で受け取らない。説明できない収益は、遅かれ早かれ関係を壊します。
  3. 先生が当てを持っている分野には持ち込まない。すでに付き合いのある行政書士がいる事務所に、別の連携先を押し込む理由はありません。

なお、紹介手数料の授受については、所属税理士会の会則・指針や、対象となる制度の公募要領で制限が置かれている場合があります。受け取る前に必ず確認してください。

いまやるなら、まず「顧問先の棚卸し」から

補助金の相談は、来てから動くと間に合いません。公募期間は短く、締切の直前に相談が集中します(締切の管理そのものについては補助金の締切管理に書きました)。

先に動くなら、順番はこうです。

  1. 顧問先を、設備投資の予定でソートする。直近の月次で修繕費・工具器具備品が増えている先、社長との面談で更新の話が出ている先が候補です。
  2. その先だけに、制度の情報を先に渡す。全社に一斉配信するより、5社に「御社が対象になりそうです」と言うほうが動きます。
  3. 連携先を、公募が始まる前に決めておく。締切2週間前に探し始めると、受けてもらえません。

補助金は、事務所にとって「新しく取りに行く仕事」ではなく、すでに持っている月次データの使い道です。線を引いて、持ち場を決めて、動ける形にしておく。それだけで、同じ顧問料の中で顧問先から見える価値が変わります。

顧問先に踏み込んだ提案をどう仕組みにするかは、MAS監査の始め方にもまとめてあります。

執筆

平澤 建(ひらさわ たける)

taXel 代表。中小企業向けにKPI経営の伴走支援とEC運用支援を行っています。 税理士の先生方へのヒアリングを重ね、いただいた要望をそのまま機能にする形でtaXelを開発しています。

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法令の解釈を示すものではありません。行政書士法・社会保険労務士法・税理士法の適用および各補助金制度の要件は、必ず所属税理士会・各士業の専門家・公募要領の最新版でご確認ください。筆者は税理士・行政書士・社会保険労務士のいずれでもありません。

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