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税理士向け AI活用

決算書をAIに読ませたら、何を間違えたか|原本と照合した17冊の実測と、事務所で決めておく3つのこと

2026.11.02・平澤 建

顧問先の決算書をAIに読ませて、分析や資料作りを速くする。会計事務所向けのツールは、この数年で一気に増えました。紹介ページには「読み取り精度95%」「98.6%(社内ベンチマーク)」といった数字が並びます(2026年10月21日、「決算書 AI 読み取り 精度」の検索上位より)。

私たちもTaxelで、決算書をAIで読み取る仕組みを作っています。そして2026年9月、読み取った数字を決算書の原本と1項目ずつ照合しました。この記事では、そこで分かったことを、うまくいかなかった部分も含めてそのまま書きます。先生がAIツールを選ぶとき、そして事務所で使うときに、何を決めておけばいいかの材料にしてください。

結論:精度は「1つの数字」ではなく、PDFの作り方で割れる

原本照合で分かったこと(Taxel社内測定・2026年9月)
① 会計ソフトから出力したPDF(文字データを持つ):10冊・90項目で誤りゼロ(9月29日時点)
② 紙をスキャンしたPDF(画像):88項目中85項目が正確。毎回1〜3項目、違う場所を誤る(9月28日時点)
③ 誤った数字は、合計も貸借も合ったまま保存されることがある。原本を見るまで誰も気づけなかった

サンプルは5社・17冊で、統計的な保証はありません。たとえば「誤りが5%以下」と言い切るには約60冊、「1%以下」なら約300冊の検証が必要になると私たちは見積もっています。それでも、どの経路で読んだかによって結果がはっきり分かれたことは、先生方にお伝えする価値があると考えました。

何を間違えたのか(実際に起きた4つの型)

照合の前、私たちのデータベースの中では、すべての数字のつじつまが合っていました。貸借は一致し、画面もきれいに出ていました。それでも原本と比べると、次のような誤りが見つかりました(顧問先の特定につながらないよう、会社名と金額は伏せています)。

誤りの型何が起きたか分析への影響
2段組の読み違え貸借対照表の左右の段を横に読み、固定負債の金額を流動負債に取り込んだ借入のある会社が「無借金」として登録された
科目の拾い漏れ「現金」の行だけを拾い、「預金」を落とした手元資金が実際の数十分の一になり、資金ショート寸前と誤って判定された
呼び名の違いJAバンク・ゆうちょの「普通貯金」を現預金として数えなかった地方の中小企業ほど現預金が過少になる
月の並びの逆転月次推移の月を逆順に取り込んだ季節性の読みが逆になる

どれも、決算書が間違っていたのではありません。読み取る側が間違えていました。そしてやっかいなのは、2つ目と3つ目の型です。現金の取りこぼしが内訳の中で起きると、合計はそのまま合ってしまいます。「全体の辻褄が合う」ことは、「その項目が正しい」ことを意味しませんでした。

分かった3つのこと

1. 何度読ませても、同じところを同じように間違える

同じスキャンPDFを繰り返し読ませると、毎回まったく同じ値で間違える項目がありました。一方で、読み方(解像度やページの切り方)を変えると、今度は別の項目で間違えます。回数を増やしても直らず、読み方を変えると違う場所がずれる。スキャンの精度は、AIの性能だけでは決まらないということです。

2. 算数で裏を取ると、かなり直せる

決算書は、自分で自分を検算できる書類です。流動資産の内訳を足せば流動資産合計になり、資産合計と負債・純資産合計は一致し、売上から原価を引けば粗利になります。私たちは、AIが読んだ数字を「正解」ではなく「候補」として扱い、こうした計算が合う候補だけを採るように作り直しました。ある会社の3期分は、この方法で42項目中39項目から42項目すべての一致に改善しました。ただし、区分そのものの取り違え(長期借入金を短期の負債に入れても負債合計は合う)は、決算書の中の計算だけでは正誤が出ません。

3. いちばん効いたのは、コードではなく「一言」だった

会計ソフトから直接出力したPDFは、文字データを持っているため、AIの画像読み取りを通さずに数字を取り出せます。この経路では誤りがゼロで、処理時間も1ファイルあたり約40秒からほぼ0秒になりました。つまり、精度を上げる最も安い方法は、顧問先に「紙をスキャンせず、会計ソフトから出したPDFでください」と一言添えることでした。

事務所で決めておく3つのこと

  1. 決算書・試算表は「ソフト出力のPDF」で受け取ると決める。事務所で会計ソフトを触れるなら、事務所側で出力するのが最も確実です。顧問先から受け取る場合は、依頼文に一言入れましょう。
  2. AIの出力は「候補」として扱い、社長に出す前に3か所だけ原本と突き合わせる。現金預金・借入金の合計・売上高の3つです。この3つがずれると、資金繰りの判断と打ち手がまるごと変わります。
  3. ツールを選ぶときは、精度の数字に3つの質問を足す。「何冊で測ったか」「スキャンとソフト出力で分けて測ったか」「原本と照合したか(自社データの整合ではなく)」。答えられるベンダーかどうかで、その数字の重みが分かります。

Taxelでは、こう扱っています

Taxelでは、決算書のアップロード画面で、ファイルを選ぶ前に「会計ソフトから出力したPDFが最も正確です」と表示する改修を行いました(2026年9月)。読み取った数字は、合計・貸借・損益の整合で裏を取り、どうしても判断できない食い違いには警告を残します。そのうえで、原本の正解値と突き合わせる検証も残し、原本が手に入るたびに対象を増やしています。17冊で「安全です」とは言えないからです。

AIは、先生の手間を大きく減らせます。ただし、その数字を社長の前に出すのは先生です。どこまでがAIの仕事で、どこからが先生の確認かを、事務所の中で先に決めておきましょう。測定の詳細や、事務所での受け取り方の例は、資料でもご紹介しています。

関連記事:会計事務所のAI活用/社長が最後まで聞く月次報告の5原則/社長に出す前に先生へ聞く5つの質問

執筆

平澤 建(ひらさわ たける)

Taxel 代表。中小企業向けにKPI経営の伴走支援とEC運用支援を行っています。 税理士の先生方へのヒアリングを重ね、いただいた要望をそのまま機能にする形でTaxelを開発しています。

※ 本記事の数値は、Taxelの自社開発ツールで2026年9月に行った社内測定です(5社・17冊)。サンプル数が少ないため統計的な保証はなく、他社のツールの精度を示すものではありません。顧問先の特定につながらないよう、会社名・金額は伏せています。筆者は税理士ではありません。

原本照合の結果と、受け取り方の例を資料でお送りします

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