決算書だけで出した提案は、なぜ外れるのか|社長に出す前に先生へ聞く5つの質問
2026.10.06・平澤 建
決算書を読み込んで、数字の変化の原因を調べ、打ち手を3つ並べた。社長に見せたら、診断の部分では「そうなんだよ」とうなずいてもらえた。ところが打ち手に入ると、「それは無理だ」「うちはそうなっていない」と1つずつ外された。そういう経験はありませんか。
私たちはTaxelの開発の途中で、これを自分たちで体験しました。この記事では、その失敗の中身と、そこから決めた「提案を出す前に、先生へ聞く質問」の作り方をまとめます。税理士の先生が社長に提案するときにも、そのまま使える内容です。
結論:決算書だけで出した打ち手は外れる。外れる理由は「実態を知らない」から
2026年4月、ある食品卸売会社(社名は伏せます)の決算書を使って、レポートの作成と社長への説明を試しました。結果は次のとおりです。
| 部分 | 社長の反応 | 外れた理由 |
|---|---|---|
| 診断(市場の成長・人件費が重い等) | 好反応 | ―(決算書の数字から読める内容) |
| 打ち手(経理コストの削減、倉庫業務の外注化 等) | ほぼ全て却下 | 経理の費用は月6万円程度で、削る余地がなかった。倉庫業務は製造と一体で、外注に出せなかった |
どちらも、決算書を見ただけでは分からない事情です。経理の人件費が月6万円しかないことは、決算書の科目からは読み取れても、「削れない」とまでは言えません。倉庫と製造が一体であることは、決算書のどこにも書いてありません。診断は決算書で書けますが、打ち手は、その会社の実態で決まるということです。
この会社の実態を知っていたのは、担当の税理士の先生でした。AIにも私にも欠けていたのは、先生に先に聞く工程でした。
提案が外れると、次の提案の信用が落ちる
外れた提案には、もう1つ代償があります。社長は「この人は、うちの実態を分かっていない」と受け取ります。先生の事務所が出す提案に、その印象がつくと、次に出す提案にも「また的外れだろう」という目で見られます。
先生方へのヒアリングでも、関連する話を聞きました。ある先生は、「どうせ社長は結論しか聞かない」と話し、結論を一言で言える形にすることを求めていました(2026年6月)。結論だけを聞く相手に、的外れな結論を出せば、聞いてもらえる機会を1回失います。提案の数を増やすより、外さないことのほうが先というのが、私の結論です。
提案の前に整理する「見かけ→正体→実態」の3段階
私のコンサルでは、数字を見るときに6つの段階で考えています。
- 見かけ:損益計算書の表面の数字(黒字転換、売上増など)
- 正体:その数字の中身を疑う(その利益は補助金や一時的な収入ではないか)
- 実態:会計上の数字と、実際の姿の差(債務超過ではないか、現金は本当にあるか)
- 文脈:今この会社は、どのフェーズにいるか(投資期か、回収期か)
- 打ち手:攻めと守りを両方見る
- 具体:誰に、何を頼むか
決算書だけで書けるのは、①と②の途中までです。③の実態と④の文脈は、決算書の外にある情報です。ここを飛ばして⑤・⑥の打ち手に行くと、先ほどの失敗になります。
先生に聞く5つの質問(社長に聞く前に)
③と④を埋めるために、提案の前に確認することを5つにしました。先生が既に知っていることが多く、社長に聞く前に先生に聞けば、社長の時間を使わずに済みます。
- コストの中身:この費用は誰が・何のために使っているか。(人件費が重い場合、何人で、1人いくらか)
- なぜ今のやり方か:外注していない/している理由は何か。(自社でやっているのは品質のためか、単に慣れか)
- 特殊要因:今期の数字に、補助金・一時的な売上・特別な支出は含まれているか。
- 取引先の構成:売上のうち、1社への依存はどのくらいか。取引先はどんな相手か(官公庁・大企業・個人など)。
- 社長の向き:今期、社長は攻めたいのか、守りたいのか。(コスト削減か、売上拡大かは、決算書だけでは決められません)
この5つの答えがあるだけで、「経理を外注しましょう」のような一般論の提案は、「この費用はこの理由で残し、ここを変えましょう」に変わります。
先生が答えられる質問と、社長に聞く質問を分ける
質問は、先生が答えられるものと、社長にしか分からないものに分けます。コストの内訳や取引先の構成は、先生がほぼ知っています。社長に聞くのは、「今期やりたいこと」や「手放せないやり方」のような、意思や事情の部分に絞りましょう。社長に聞く質問の数が減るほど、面談の1回目から本題に入れます。
外せない例外:依存度が高い会社は、打ち手の「安全性」を先に見る
別の事例(社名は伏せます)として、2026年6月のヒアリングで、売上の7〜8割が1社に偏り、現金が3期で大きく減る見込みの会社の話が出ました。この会社は取引先が官公庁や大企業に限られるため、営業代行のような攻めの提案は合わない可能性が高いと見られていました。実態を知らずに「新規開拓を強化しましょう」と出していたら、ここでも外していたはずです。
決算書の数字は同じような形でも、取引先の性格で、効く打ち手は逆になります。質問4(取引先の構成)を飛ばさないでください。
Taxelでの扱い
Taxelは、決算書を読み込んだあと、いきなり提案を出さず、まず先生に聞くべき質問を出すことを設計の前提にしています。先生が答えた内容を踏まえて、打ち手を絞り込む流れです。これは、上の失敗から決めた設計です。ただし、提案の最終的な判断と、社長への説明は、先生の仕事です。個別の税務判断はAIが行うものではなく、先生の判断に基づくものとして扱っています。
まとめ:次の面談の前にやること3つ
- 提案の前に、上の5つの質問に自分で答えを書く。答えが書けない質問が、社長に聞く質問です。
- 打ち手は3つ並べず、「実態に合うもの」を1つ選ぶ。選べないときは、質問が足りていません。
- 診断は決算書から、打ち手は実態から。この順番を、資料の構成にも反映しましょう。
執筆
平澤 建(ひらさわ たける)
Taxel 代表。中小企業向けにKPI経営の伴走支援とEC運用支援を行っています。 税理士の先生方へのヒアリングを重ね、いただいた要望をそのまま機能にする形でTaxelを開発しています。
※ 本記事に記載した試行の内容は、社名・先生のお名前・事務所名を伏せたうえで、要旨をまとめたものです。1社の試行とヒアリングに基づく筆者の知見であり、一般化できるものではありません。筆者は税理士ではありません。業務範囲・個別の税務判断に関するご判断は、所属税理士会等にご確認ください。