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社長向け 資金繰り

資金繰りを改善する順番|「一度きり」と「毎月効く」で打ち手を分ける

2026.09.09・平澤 建

結論から書きます。資金繰りの打ち手は「効くか効かないか」で並べるものではありません。「一度きりで終わる現金」と「毎月効き続ける現金」の2種類に分けて、両方を同時に走らせる。これが順番です。

「資金繰り 改善」で検索すると、回収サイトの短縮、在庫の圧縮、経費の削減、融資――といった打ち手が7つや10ずつ並んだ記事が出てきます。書いてある内容はどれも正しい。それでも動けないのは、どれが何円になるのか、どれから手を付けるのかが書かれていないからです。この記事では、そこだけを具体的に埋めます。

まず、打ち手を2つの箱に分ける

資金繰りの打ち手には、性質のまったく違う2種類が混ざっています。

種類中身効き方
A:一度きりの現金売掛金の回収を早める/在庫を減らす/遊休資産を売る/借入で調達する残高が一段上がる。ただし翌月からは元のペースに戻る
B:毎月効く現金固定費を落とす/粗利率を上げる/支払条件そのものを恒久的に変える1回あたりは小さいが、12ヶ月・24ヶ月と積み上がる

資金繰りが苦しくなった会社がまず打つのは、ほぼ例外なくAです。金額が大きく、すぐ効くからです。それ自体は正しい。危ないのは、Aで一息ついたところで手を止めてしまうことです。Aは一度使うと二度目がありません。回収サイトは一度短くしたらそれ以上短くできませんし、在庫も売る資産も有限です。半年後に同じ苦しさが戻ってきたとき、今度は打つ手がない。

だから順番はこうなります。Aで時間を買い、その時間でBを仕込む。Aだけでも、Bだけでも足りません。

それぞれ何円になるのか、式で出す

「回収サイトを短くしましょう」だけでは、社内の誰も動きません。金額に換算すると、優先順位が一発で決まります。以下は暗算できるレベルの概算式です。

A-1:売掛金の回収を早める

効果額 = 月商 × 短縮できる日数 ÷ 30(一度きり)

月商2,000万円の会社が、回収サイトを15日短縮できたとします。2,000万円 × 15 ÷ 30 = 1,000万円の現金が、一度だけ手元に増えます(試算)。金額としては最大級です。ただし翌月以降は新しいサイトが標準になるだけなので、増えるのは最初の一回だけです。

A-2:在庫を減らす

効果額 = 月間の仕入額 × 減らせる日数 ÷ 30(一度きり)

月間仕入800万円で、在庫を10日分圧縮できれば約267万円。ここで見るべきは金額そのものより、どの品番が動いていないかです。全体を一律に絞ると欠品して売上を落とすので、滞留している上位10品番だけを対象にします。

A-3:借入で調達する

金額は一番大きく、一番早い。ただし借入には「毎月の元本返済」という新しい固定支出が付いてきます。しかも元本返済は費用ではないので、損益計算書のどこにも出てきません。利益が出ているのに現金が減る、という現象のほとんどはこれが原因です。

借りるなら、借りた後の12ヶ月の資金繰り表を先に引いてください。返済が始まった後の残高が、借りる前より低い月があるなら、その借入は資金繰りの解決になっていません。

B-1:固定費を落とす

効果額 = 削減額 × 12ヶ月(以後ずっと)

月20万円の固定費削減は、年240万円です。A-1の1,000万円と比べると小さく見えますが、A-1は1回、B-1は毎年です。4年で追いつき、5年目からは上回ります。

B-2:粗利率を1ポイント上げる

効果額 = 年商 × 1%

年商2.4億円なら240万円。値上げ、単価の付け直し、原価の高い案件の絞り込みのどれでも構いません。資金繰りに最も長く効くのは、実はここです。粗利率は毎月の入金額そのものを押し上げるので、Bの中でも別格に強い。

2026年1月から、取引条件の交渉は法律が味方になった

ここは多くの記事がまだ反映できていない部分なので、押さえておく価値があります。

2026年1月1日、下請法が「中小受託取引適正化法(取適法)」として施行されました。従来の下請法を改正したもので、発注する側の義務が明確に強くなっています。中小企業庁・公正取引委員会が公表しているポイントのうち、資金繰りに直接効くのは次の3つです。

※ 適用範囲について:取適法には資本金基準に加えて従業員数の基準が新設され、対象となる取引の範囲が広がっています。自社の取引が対象になるかは、公正取引委員会・中小企業庁の公表資料と顧問の専門家に確認してください。

実務上の意味はシンプルです。「回収を早めてほしい」という申し入れが、お願いから正当な要求に変わりました。これまで言い出しにくかった会社ほど、いま交渉の材料が増えています。A-1(回収サイト短縮)を後回しにする理由が、1つ減ったと考えてください。

やってはいけない順番が3つある

  1. 社長の役員報酬を真っ先に下げる。会社の資金繰りは一時的に楽になりますが、生活費が足りずに社長個人が会社からお金を引き出すと、役員貸付金として貸借対照表に残り続けます。金融機関からは「会社の外に出たまま戻っていない資産」と見られ、次の融資で説明を求められます。報酬の決め方は役員報酬の決め方で詳しく書きました。
  2. 納税と社会保険料を後回しにする。延滞金の負担もありますが、本当に重いのは滞納が金融機関の融資判断でほぼ確実に止まることです。一番安い資金調達手段である銀行融資を、自分で閉じてしまう順番になります。
  3. 金利の高い資金調達に先に手を出す。調達手段には明確なコスト順があります。銀行融資 → 公的融資・制度融資 → 保証付き → ノンバンク・売掛債権の早期資金化、の順で当たる。逆から入ると、金利と手数料で毎月の資金繰りがさらに重くなります。

最初の1週間でやること

打ち手を選ぶ前に、現金の動きを見える形にします。ここに時間をかけすぎないのがコツで、精度より速さです。

  1. 全口座の残高を、1枚の紙に書き出す。会計ソフトの数字ではなく、通帳の実残高です。
  2. 今後3ヶ月の「確定している入金」と「確定している出金」を並べる。売掛金の入金予定、買掛金・給与・家賃・借入返済・納税・社会保険。予測ではなく、すでに決まっているものだけで構いません。
  3. 月末残高が一番低くなる月を特定する。その月の残高が、いまの会社の本当の余力です。

3ヶ月先の残高を出す具体的な手順は、資金繰りを3ヶ月先まで読む方法にまとめてあります。

この1枚ができると、A(一度きり)でいくら足りないのか、B(毎月効く)でいくら埋めるのかが、金額で言えるようになります。順番の議論は、そこから始まります。

税理士に相談するなら、A案とB案を持って行く

最後に、実務の話を1つ。私たちはtaXelの開発にあたって、税理士の先生方へのヒアリングを9件重ねてきました。そこで繰り返し出てきたのが「顧問料3万円の壁」です。

月額3万円前後の顧問契約では、記帳のチェックと申告書の作成で稼働が埋まります。資金繰りの打ち手を洗い出して金額を積む――という作業まで手が回らないのは、先生の姿勢の問題ではなく、業界の値付けが持っている構造です。

だから、社長側から「Aでこれをやる、Bでこれをやる、合わせて月◯万円改善する」という叩き台を持って行くと、話が一気に前に進みます。ゼロから作ってもらうのではなく、判断を仰ぐ形にする。同じ顧問料でも、受け取れる助言の密度が変わります。

資金繰りは、苦しくなってから考えると選択肢が減ります。残高が一番低くなる月を先に知っておくこと。まずはそこからです。

執筆

平澤 建(ひらさわ たける)

taXel 代表。中小企業向けにKPI経営の伴走支援とEC運用支援を行っています。 税理士の先生方へのヒアリングを重ね、いただいた要望をそのまま機能にする形でtaXelを開発しています。

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。記載した金額は計算例(試算)であり、実際の効果を保証するものではありません。法令・制度は改正されます。個別の税務・法務判断については、顧問税理士および専門家にご相談ください。筆者は税理士ではありません。

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