貸借対照表の見方|前期と並べて差額を取ると「お金の行き先」が分かる
2026.11.02・平澤 建
「貸借対照表は、右と左が同じ金額になる表」。そこまでは知っていても、自分の会社の貸借対照表を開いて「で、うちは大丈夫なのか」に答えられる社長は多くありません。「貸借対照表 見方」で検索すると、資産・負債・純資産の構造と、自己資本比率・流動比率などの指標の解説が上位に並びます(2026年10月21日、筆者の検索結果)。どれも正しい内容ですが、1期分の表を眺めているだけでは、お金がどこへ行ったのかは分かりません。
この記事では、貸借対照表を前期と今期の2期分並べて、差額を取る見方を紹介します。仮定値の計算例で、「利益は出たのに、現金が減った」理由を貸借対照表から読み解くところまで進めましょう。
結論:見るのは3か所。そして「前期との差額」でお金の行き先を読む
① 現金預金:手元にいくらあるか。月商の何ヶ月分か
② 借入金:短期・長期・1年内返済予定の合計。前期より増えたか減ったか
③ 純資産:プラスか(マイナスなら債務超過)。前期より増えたか
そのうえで:全部の科目について「今期−前期」を出し、増えた資産・減った負債にお金が使われたと読む
貸借対照表は「決算日の1日の写真」です。写真を1枚見ても、その間に何があったかは分かりません。2枚並べて差を取ると、1年間にお金が何に使われ、どこから入ってきたかが見えてきます。キャッシュ・フロー計算書を作っていない中小企業でも、この方法なら貸借対照表2期分だけで同じことが確認できます。
貸借対照表のどこに何があるか(最小限)
| 場所 | 意味 | 社長が拾う科目 |
|---|---|---|
| 左側:資産の部 | 集めたお金を、いま何の形で持っているか | 現金預金、売掛金、棚卸資産(在庫)、建物・車両などの固定資産 |
| 右上:負債の部 | いずれ返す・払うお金 | 買掛金、短期借入金、1年内返済予定の長期借入金、長期借入金 |
| 右下:純資産の部 | 返さなくていいお金。出資と、これまでの利益の積み上げ | 資本金、繰越利益剰余金 |
よく聞かれる質問に2つ答えておきます。「貸借対照表のどこに利益があるのか」は、純資産の部の「繰越利益剰余金」です。今期の利益(配当などを出していなければ)は、ここが前期より増えた分として現れます。「△」はマイナスの印です。繰越利益剰余金が「△300」なら、これまでの損失の積み上げが300残っているという意味です。純資産の合計がマイナスになっている状態を債務超過といい、資産を全部売っても負債を返しきれない状態を指します。
計算例:利益900万円なのに、現金が500万円減った会社(数字はすべて仮定値)
実在の会社ではなく、説明のために置いた仮定値です(単位:万円)。売上は年1億2,000万円(月商1,000万円)とします。
| 科目 | 前期 | 今期 | 今期−前期 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 2,000 | 1,500 | △500 |
| 売掛金 | 1,200 | 1,700 | +500 |
| 棚卸資産(在庫) | 600 | 800 | +200 |
| その他の流動資産 | 200 | 200 | 0 |
| 固定資産(減価償却後) | 1,500 | 1,800 | +300 |
| 資産合計 | 5,500 | 6,000 | +500 |
| 買掛金 | 700 | 750 | +50 |
| 短期借入金(1年内返済分を含む) | 600 | 600 | 0 |
| その他の流動負債(未払金・未払税金など) | 500 | 450 | △50 |
| 長期借入金 | 2,200 | 1,800 | △400 |
| 資本金 | 1,000 | 1,000 | 0 |
| 繰越利益剰余金 | 500 | 1,400 | +900 |
| 負債・純資産合計 | 5,500 | 6,000 | +500 |
繰越利益剰余金が900万円増えているので、配当を出していなければ今期の利益は900万円です。それなのに、現金預金は500万円減っています。差額の列を、お金が「入ってきた」ものと「出ていった」ものに分けると、理由が分かります。
| お金が入ってきた(負債・純資産が増えた) | 万円 | お金が出ていった(資産が増えた/負債が減った) | 万円 |
|---|---|---|---|
| 今期の利益 | +900 | 売掛金が増えた(まだ回収していない売上) | 500 |
| 買掛金が増えた(まだ払っていない仕入) | +50 | 在庫が増えた | 200 |
| 設備に投資した(固定資産の増加) | 300 | ||
| 長期借入金を返済した | 400 | ||
| 未払金・未払税金を払った | 50 | ||
| 合計 | 950 | 合計 | 1,450 |
入ってきた950万円に対して、出ていったのが1,450万円。差し引き△500万円が、現金預金の減少額とぴったり一致します(950−1,450=△500)。利益の900万円は消えたのではなく、売掛金・在庫・設備・借入の返済に形を変えたということです。
指標だけ見ると「良くなった」ように見える
この会社の指標を計算すると、次のとおりです。
| 指標 | 計算 | 前期 | 今期 |
|---|---|---|---|
| 自己資本比率 | 純資産 ÷ 資産合計 | 27.3%(1,500÷5,500) | 40.0%(2,400÷6,000) |
| 流動比率 | 流動資産 ÷ 流動負債 | 222%(4,000÷1,800) | 233%(4,200÷1,800) |
| 現預金の月商倍率 | 現金預金 ÷ 月商 | 2.0ヶ月 | 1.5ヶ月 |
自己資本比率も流動比率も上がっています。検索上位の記事が紹介する指標だけで判断すると、「体力がついた」となります。ところが手元のお金は月商2ヶ月分から1.5ヶ月分に減りました。流動比率が上がったのは、現金が減った分以上に、売掛金と在庫という「すぐにはお金にならない資産」が増えたからです。指標は大事ですが、差額の表とセットで見ましょう。
この会社の次の一手は、売掛金の500万円増が「売上が伸びた分」なのか「回収が遅れている取引先がある」のかを、売掛金の明細で確かめることです。在庫の200万円増も同じように、売れ残りなのか、来期の受注に備えたものなのかを分けます。売掛金と在庫がどれだけお金を寝かせるかは、運転資金の計算で月数に直せます。
前期と並べて見る手順(電卓で15分)
- 直近2期の決算書から、貸借対照表のページを開く。多くの決算書では、前期の数字が並んでいないので、2冊を横に置きます。
- 上の計算例と同じ形の表を作る。科目は細かく分けすぎず、現金預金・売掛金・在庫・固定資産・買掛金・借入金・純資産の7つ程度にまとめます。
- 「今期−前期」の列を作る。資産が増えた行と、負債が減った行が「お金を使った先」です。
- 使った先の上位2つに印を付ける。理由を説明できるか、自分に問いかけます。
- 説明できなかったものだけ、明細(売掛金の取引先別・在庫の品目別・借入の返済予定表)を開く。
借入金の「短期」と「長期」は、読み間違えやすい
私たちはTaxelの開発で、決算書の数字をAIで読み取る仕組みを作っています。原本と1項目ずつ照合したところ、紙をスキャンしたPDFでは、2段に組まれた貸借対照表を横に読み違え、長期の借入(固定負債)の金額を短期の負債(流動負債)として取り込む誤りが実際に起きました。逆に、会計ソフトから直接出力したPDFでは、2026年9月29日時点の測定(10冊・90項目)で誤りはゼロでした。サンプルが少ないため統計的な保証はなく、傾向を示す参考値です。
人が読む場合も、短期か長期かの取り違えは起きます。短期の負債が増えたように見えれば「1年以内に払うお金が増えた」と受け取ってしまい、判断を誤ります。借入金は「短期借入金」「1年内返済予定の長期借入金」「長期借入金」の3行を別々に拾い、合計も出しておきましょう。決算書を保存するときは、スキャンではなく会計ソフトから出力したPDFを残しておくと、読み違いが起きにくくなります。
まとめ:今日やること3つ
- 直近2期の貸借対照表を並べ、7科目の「今期−前期」を出す。入ってきた額と出ていった額の差が、現金預金の増減と合うかを確かめます。
- 使った先の上位2つについて、理由を1行で書く。説明できないものだけ明細を開きましょう。
- 純資産がプラスか、前期より増えたかを確認する。マイナス(債務超過)なら、次の決算までに解消する計画を顧問税理士と立てましょう。
関連記事:資金繰りを改善する順番/資金繰り表の作り方/運転資金の計算式
執筆
平澤 建(ひらさわ たける)
Taxel 代表。中小企業向けにKPI経営の伴走支援とEC運用支援を行っています。 税理士の先生方へのヒアリングを重ね、いただいた要望をそのまま機能にする形でTaxelを開発しています。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。計算例は仮定値であり、実在の会社を示すものではありません。計算例では配当・増資がないものとし、固定資産は減価償却後の金額で示しています。読み取り精度の数値は自社開発ツールでの測定で、サンプル数が少ないため統計的な保証はありません。筆者は税理士ではありません。
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