資金繰り表の作り方|3ヶ月先を読む最小構成は「7行」でいい
2026.09.30・平澤 建
「資金繰り表 作り方」で検索すると、エクセルのひな形と、通帳から入出金を書き写す手順が並びます。どれも間違ってはいません。ただ、実際にやってみると多くの社長が2ヶ月目で手が止まります。
止まる理由はだいたい2つです。行が多すぎて埋まらないことと、「来月いくら入るか」を何を根拠に置けばいいか分からないことです。
この記事では、行を7行まで削った最小構成と、予測の根拠を決算書から出す方法を説明します。最初の1枚は、1時間あれば作れます。
結論:最初は「3ヶ月・7行」で作りましょう
先に完成形を見せます。最初の資金繰り表は、この7行で十分です。
| 行 | 中身 | 数字の置き方 |
|---|---|---|
| ① 月初の残高 | 全口座+手元現金の合計 | 通帳の実残高(帳簿の数字ではない) |
| ② 入金 | 売上の回収 | 「何ヶ月前の売上が入るか」で置く |
| ③ 仕入・外注の支払い | 売上に連動する支払い | 売上 × 原価率を、支払月にずらして置く |
| ④ 毎月の固定的な支払い | 人件費・家賃・リース・通信費など | 直近3ヶ月の平均をそのまま置く |
| ⑤ 一度に大きく出る支払い | 税金・賞与・社会保険料の上乗せなど | カレンダーから該当月にだけ置く |
| ⑥ 借入の返済 | 元金+利息 | 返済予定表から写す |
| ⑦ 月末の残高 | ① + ② − ③ − ④ − ⑤ − ⑥ | 計算するだけ。これが翌月の①になる |
検索上位の記事に載っているひな形は、経常収支・財務収支・設備投資と細かく分かれていて、20〜30行あるものが多くあります。銀行に提出する段階ではその形が必要になりますが、「来月・再来月にお金が足りるか」を知るだけなら7行で答えが出ます。細かい行は、7行が3ヶ月続けて回ってから足せば間に合います。
1. 起点は「通帳の残高」。帳簿の現預金から始めない
最初の行は、全口座の残高と手元現金を足した実額です。試算表の「現金預金」の数字は使いません。記帳が月末から数週間遅れて締まる会社では、試算表の現預金は最大で1ヶ月以上前の姿です。資金繰り表は「今、使えるお金」から出発しないと、最初の1行でズレます。
定期預金や、借入の担保に入っている預金は分けて書いておきましょう。残高には見えていても、今月の支払いには使えないお金です。
2. 入金は「売上」ではなく「回収」で置く。根拠は決算書から出せる
一番つまずくのがここです。来月の入金を「来月の売上見込み」で置くと、ほぼ確実に外れます。掛けで売っている会社の入金は、売上の数ヶ月後にやってくるからです。
「何ヶ月遅れで入るか」は、取引先ごとの締め日と支払日から決めるのが正確ですが、取引先が多いと手間がかかります。そこで、決算書の2つの数字から、会社全体の平均を1本で出す方法を使います。
例:年商1億2,000万円(月1,000万円)、決算書の売掛金が2,000万円 → 2,000 ÷ 1,000 = 2.0ヶ月
→ 「今月の入金 ≒ 2ヶ月前の売上」と置けばよい、ということです。
※ 数値は説明のための仮定です。決算月の売上が季節で膨らむ会社では、月数が実態より長く出ます。
支払い側も同じ式で出せます。買掛金 ÷ 月の平均仕入が、仕入れてから払うまでの月数です。入金が2ヶ月後、支払いが1ヶ月後なら、その差の1ヶ月分は会社が立て替えている、ということになります。売上が伸びる月ほどお金が足りなくなるのは、この立て替えが膨らむからです。
3. 「一度に大きく出る月」を先に書き込む
毎月の支払いは、先月と大きく変わりません。資金繰りが崩れるのは、年に数回だけ大きく出ていく支払いを忘れていた月です。7行のうち⑤の行だけは、まずカレンダーを見て該当月に書き込みましょう。
| 支払い | いつ出るか | 確認するもの |
|---|---|---|
| 法人税・消費税(確定申告) | 決算日の翌日から2ヶ月以内 | 前期の申告書 |
| 法人税の中間納付 | 前期の法人税額が20万円超なら、期首から6ヶ月経過後2ヶ月以内 | 前期の申告書 |
| 消費税の中間納付 | 前期の消費税額(国税分)が48万円超で年1回、400万円超で年3回、4,800万円超で年11回 | 前期の申告書 |
| 賞与 | 支給月(夏・冬など) | 就業規則・前年実績 |
| 社会保険料の上乗せ | 賞与を払った月の翌月末(賞与にも保険料がかかる) | 前年の賞与月の通帳 |
| 源泉所得税(納期の特例を受けている場合) | 1〜6月分を7月10日、7〜12月分を翌年1月20日にまとめて納付 | 特例の承認の有無 |
| 労働保険料(年度更新) | 6月1日〜7月10日 | 前年の申告書 |
| 固定資産税・自動車税など | 自治体の納期(固定資産税は年4回が一般的) | 納税通知書 |
※ 納期は国税庁・日本年金機構・厚生労働省の公表内容にもとづく一般的なルールです。延納・特例の有無で会社ごとに変わるため、実際の納付月は前期の通帳と申告書で確認してください。
4. 作ってみる:利益が出ている3ヶ月でも、お金は減る
ここまでの手順で、仮の会社の3ヶ月分を作ってみます。9月決算、月商約1,000万円、原価率50%、回収2ヶ月・支払い1ヶ月、12月に賞与、という設定です。数字はすべて説明用の仮定で、特定の会社のものではありません。
| (単位:万円) | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|
| ① 月初の残高 | 1,500 | 1,600 | 1,200 |
| ② 入金(2ヶ月前の売上) | 1,000 | 900 | 1,100 |
| ③ 仕入・外注の支払い | 450 | 550 | 500 |
| ④ 毎月の固定的な支払い | 350 | 350 | 350 |
| ⑤ 一度に大きく出る支払い | 0 | 300(法人税・消費税の確定分) | 400(賞与) |
| ⑥ 借入の返済 | 100 | 100 | 100 |
| ⑦ 月末の残高 | 1,600 | 1,200 | 950 |
この会社は、月々の損益で見れば1ヶ月あたり約150万円の黒字です(売上1,000万円 − 原価500万円 − 固定費350万円。年2回の賞与を12ヶ月に按分しても黒字は残ります)。それでも3ヶ月で現金は1,500万円から950万円へ、550万円減ります。税金と賞与が同じ四半期に重なり、しかも返済は利益ではなく手元のお金から出ていくからです。
試算表だけを見ていると、この減り方は12月末まで見えません。7行の表を3ヶ月先まで書いておけば、10月の時点で「12月末に1,000万円を切る」と分かります。分かっていれば、賞与の額を決める前に手を打てます。
「ここを下回ったら動く」線を1本引く
表ができたら、月末残高に最低ラインを1本引きましょう。筆者は目安として、④毎月の固定的な支払い+⑥返済の1ヶ月分を使っています。上の例なら450万円です。売上の入金が1ヶ月まるごと遅れても、給与と返済は止めずに済む水準です。この線に3ヶ月以内に近づく月があれば、そこが動き出すタイミングです。
5. 作ったあとに外しやすい3つのポイント
- 見込みと実績を上書きしない。月が終わったら、見込みの横に実績を並べて差を1行で書きます。「入金が50万円少なかった=A社の支払いが翌月にずれた」。この1行が、翌月の予測を正確にします。
- 消費税を売上の一部として数えない。入金額には預かった消費税が含まれています。⑤の行に確定申告分と中間納付分を必ず置き、入金の全額を使えるお金と見なさないようにしましょう。
- 3ヶ月より先を細かく作り込まない。4ヶ月目以降は外れる前提で、月ごとの合計だけを置けば足ります。精度を上げる努力は、目の前の3ヶ月に集中させるほうが効きます。
6. 「資金繰り表は誰が作るのか」への答え
Googleの「関連する質問」にも「資金繰り表は誰が作るの?」が出てきます。結論から言うと、資金繰り表は会社が作るものです。標準的な顧問契約には含まれていないことがほとんどです(顧問料の相場と中身で詳しく書きました)。
私たちは税理士事務所向けのツール(taXel)を開発する過程で、税理士の先生方へのヒアリングを重ねてきました。2026年9月の面談では、ある先生から次のような話を聞いています。
- 借入のある顧問先については、資金繰り表を毎月、金融機関へ送っている。
- 融資や補助金の申請では、「今のまま横ばい」という計画はまず通らない。先の数字を示すことが事実上の前提になっている。
- 一方で、未来の数字を作る作業は、税理士も社長も「できればやりたくない」。だから誰も手を付けないまま空いている。
※ 融資審査の運用については、実務家1名の証言として紹介しています。金融機関ごとに扱いは異なります。
ここから言えることは、7行の表を社長が作って先生に見せるのが、一番早く回る分担だということです。ゼロから頼むと「顧問料の範囲外」になりますが、できあがった表に「⑤の税金の月と金額が合っているか見てください」と頼むのは、先生が本業で答えられる質問です。
まとめ:今日やること3つ
- 全口座の今日の残高を足す。それが①の行です。帳簿の数字は使いません。
- 決算書を1冊出して、売掛金 ÷ 月の平均売上を計算する。入金が何ヶ月遅れで入るかが1本の数字で決まります。
- 前期の申告書と通帳を見て、⑤の行に向こう3ヶ月分の大きな支払いを書き込む。ここまで埋まれば、資金繰り表の8割はできています。
お金が足りなくなりそうな月が見えたら、次は打ち手の順番です。資金繰りを改善する順番で、「一度きりで効く手」と「毎月効く手」の分け方を書いています。3ヶ月先を読む考え方そのものは3ヶ月先を予測する考え方もあわせてどうぞ。
執筆
平澤 建(ひらさわ たける)
taXel 代表。中小企業向けにKPI経営の伴走支援とEC運用支援を行っています。 税理士の先生方へのヒアリングを重ね、いただいた要望をそのまま機能にする形でtaXelを開発しています。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。記入例の数値はすべて説明用の仮定であり、特定の会社のものではありません。納期は2026年9月時点の一般的なルールで、特例の有無により会社ごとに異なります。筆者は税理士ではありません。個別の税務のご判断は、顧問税理士にご確認ください。
