顧問先の期待は「申告」か「経営の相談」か|顧問料の話の前に先生が聞く3つの質問
2026.11.02・平澤 建
顧問先の社長に「先生に、経営の相談もできると思っていました」と言われて、返事に詰まったことはありませんか。あるいは逆に、毎月の面談で経営の話を切り出しても、「うちは申告だけで十分です」と流されたことは。
どちらも、税理士の先生と社長のあいだに期待のズレがあるときに起きます。この記事では、Taxelの開発で先生方にお聞きした話から、期待のズレが生まれる構造と、顧問料の話をする前に先生が言葉にしておける3つの質問をまとめます。
結論:社長の期待は2種類に分かれる。契約の時点で聞いておけば、顧問料の摩擦は減らせる
先生方にお聞きすると、社長が先生に求めるものは、一枚岩ではありませんでした。
| 先生の証言(匿名・要旨) | 聞いた時期 | 読み取れること |
|---|---|---|
| 「中小企業の社長は、税理士に会計士レベルの提案を求めているが、出せていない」 | 2026年5月 | 経営の助言を期待する社長がいる |
| 「中小企業は、税理士にCFOのような役割を暗黙に期待している」 | 2026年4月 | 期待が契約書に書かれていない |
| 「顧客が本当に求めているのは申告書。複雑な相談が来ても、顧問料は上げられない」 | 2026年6月 | 申告だけを求める社長もいる。相談が増えても報酬に反映しにくい |
| 「既存の顧問先に、追加の分析のための費用をお願いするのは言いづらい」 | 2026年6月 | 助言を出すほど、先生の持ち出しが増える |
いずれも、別々の先生1名ずつの証言で、全体の傾向を示す調査ではありません。ただ、並べると構造が見えます。社長の中には「申告だけでいい」人と「経営の相談もしたい」人が混ざっていて、その違いが契約の時点で確認されていない。そして、経営の相談は、受けるほど先生の時間が増えるのに、顧問料に反映されにくい。これが、先生が経営の助言に踏み込みにくい理由の一つです。
「税理士への期待と実際のズレ」は、税理士事務所を辞めた方がnoteに書いていたり、顧問料への不満の背景として事務所のブログで触れられたりしています(2026年10月13日、筆者の検索結果)。ただ、検索の上位は社長向けの料金相場の解説が中心で、先生の側が契約の前後にどう期待を確認するか、という話はほとんど出てきませんでした。ここを埋めます。
なぜ期待が確認されないまま、契約が続くのか
理由は、契約を結ぶ場面に「聞く時間」がないからです。
- 契約時:社長の関心は「いくらか」と「いつまでにやってくれるか」。先生側も、業務範囲(記帳、決算、申告、年末調整)の説明で時間が終わる。
- 毎月の面談:試算表の説明で終わる。経営の話は、時間も、切り出す理由もない。
- 決算報告:納税額の説明が中心になる。次の1年の話までは届かない。
この3つの場面のどこにも、「社長は先生に、何を期待していますか」と聞く時間がありません。期待を聞かないまま3年、5年と続くと、社長は「聞けば答えてくれる」と思い、先生は「聞かれたら答える」と思う、という状態になります。解約は、このズレが表に出たときに起きやすくなります。解約を防ぐ打ち手は、顧問先の解約を防ぐ方法でも整理しています。
顧問料の話の前に、先生が聞ける3つの質問
期待を確認するのに、新しい面談を設ける必要はありません。決算報告の最後の5分に、次の3つを聞けば足ります。
質問1:「この1年、先生に聞きたかったのに聞けなかったことはありますか」
経営の相談を期待している社長ほど、聞けずに終わっています。ここで具体的な内容が出てくれば、その社長は「経営の相談もしたい」側です。何も出てこなければ、「申告で十分」の側かもしれません。どちらの答えも、次の1年の関わり方を決める材料になります。
質問2:「来期、いちばん気になる数字は何ですか」
売上、資金繰り、人件費、借入。社長が気にしている数字が分かれば、毎月の面談で、その数字だけを前期と並べて見せることができます。資料を増やす必要はありません。1つの数字を1年追いかけるだけで、「先生は自分の会社を見てくれている」という実感が出ます。
質問3:「経営の相談は、決算とは別のメニューとして受けています。聞いてみたいですか」
顧問料に含まれる範囲と、含まれない範囲を、言葉にして伝える質問です。含まれない範囲を別メニューにするかどうかは、先生が決めてよいことです。「無料でやってくれるのが当然」という期待を作らないために、含まれる範囲を先に伝えておくほうが、結果的に摩擦は減ります。別メニューの作り方は顧問料の入口とMAS監査の始め方に書きました。
聞いたあとにやる:「含まれる/含まれない」を1枚にする
3つの質問の答えは、その場で終わらせず、1枚に残しましょう。次の3列があれば足ります。
| 顧問料に含まれる | 相談があれば別メニュー | 社長が気にしている数字 |
|---|---|---|
| 記帳チェック、月次試算表、決算・申告、年末調整 | 資金繰り表の作成、事業計画づくり、融資の同行 など(先生が出せるものを書く) | 社長の言葉をそのまま書く(例:「来期の現金」) |
この1枚は、次の面談の最初に見せる資料になります。社長に渡す資料というより、先生自身の覚え書きです。先生のなかで、この顧問先には何をどこまで話すか、が決まっていれば、毎月の面談の切り出し方も変わります。
社長への説明は「結論から、短く」に寄せる
期待を聞いたあとに、経営の話をするとき、先生方に共通して言われたことがあります。ある先生は、2026年6月のレビューで「どうせ社長は結論しか聞かない」と話されていました。また、税理士はコンサルタントではなく、提案に慣れていないため、自分の言葉で短く説明できる形で、営業臭くならないことが大事だとも伺っています。
私たちが試作の段階で、提案の中身を決算書だけで出したときの失敗は、決算書だけで出した提案はなぜ外れるのかに書きました。期待を聞くことは、その「提案前の質問」の前段にあたります。何を提案するかの前に、何を期待されているかを知る、という順番です。
まとめ:次の決算報告でやること3つ
- 決算報告の最後に、3つの質問を聞く。5分で足ります。答えはその場でメモに残しましょう。
- 「含まれる/別メニュー/社長が気にしている数字」の1枚を作る。顧問先ごとに1枚、次の面談の最初に開きます。
- 3社だけ、先に試す。全顧問先に一斉に聞く必要はありません。経営の話をしたがっている社長、関係の長い社長、成長している社長の3社から始めましょう。
執筆
平澤 建(ひらさわ たける)
Taxel 代表。中小企業向けにKPI経営の伴走支援とEC運用支援を行っています。 税理士の先生方へのヒアリングを重ね、いただいた要望をそのまま機能にする形でTaxelを開発しています。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。先生方の発言は、Taxel開発のヒアリング(2026年4〜6月)での要旨で、別々の先生1名ずつの証言です。個人や事務所が特定されないよう匿名にしています。全体の傾向を示す統計ではありません。筆者は税理士ではありません。
期待を聞いたあとの「説明資料」を、決算書から作ります
Taxelは、税理士の先生が社長への説明に使える資料を、決算書から作るツールです。資料のサンプルとデモをご用意しています。