顧問先への提案は「金額」で出す|決算書から打ち手を作る6つの段階
2026.11.02・平澤 建
「顧問の先生から提案がない」。社長が税理士を選び直す理由として、よく挙がる言葉です。実際に「税理士 顧問先 提案」で検索すると、上位に並ぶのは社長向けの「顧問税理士の選び方」で、選ぶ基準の1つに「提案力」が入っています(2026年11月2日、筆者の検索結果)。一方で、先生の側から「提案をどう作るか」を書いた記事は、上位にはほとんど見当たりませんでした。
この記事では、筆者がKPI経営の伴走支援で使っている「決算書から打ち手を作る6つの段階」を、税理士の先生向けに書き直して紹介します。ポイントは1つ、打ち手は必ず金額で出すことです。例はすべて仮定値で、実在の会社ではありません。
結論:「数字の報告」で止めず、6段階目の「誰が・何を」まで降りる
| 段階 | やること | 面談での一言(例) |
|---|---|---|
| 1 見かけ | 損益計算書の表面の数字を確認する | 「経常利益が黒字に戻りました」 |
| 2 正体 | その数字の中身を疑う | 「ただ、増えた分の大半は補助金です」 |
| 3 実態 | 本業とお金の実際の姿を出す | 「本業はまだ赤字で、現預金は3か月分から2か月分に減りました」 |
| 4 文脈 | 今、会社がどの局面にいるかを置く | 「人を2名増やした投資の年ですね」 |
| 5 打ち手 | 守りと攻めの両方を、金額つきで並べる | 「粗利率を1ポイント上げると、年210万円です」 |
| 6 具体 | 誰が・何を・いつまでに、まで決める | 「仕入額の大きい3社の見積もりを、今月中に取り直しましょう」 |
月次の報告や決算の説明は、多くの場合1段階目で終わります。「売上は前期比5%増、経常利益は黒字転換です」。数字は正確でも、社長にとっては「で、何をすればいいのか」が残ります。提案と受け取られるのは、5段階目と6段階目まで降りたときです。
例で通して見る(数字はすべて仮定値)
売上が2億円から2億1,000万円に増え、経常利益が−300万円から+500万円になった会社を考えます。
2段階目「正体」:増えた利益の中身を分ける
営業外収益に補助金600万円が入っていました。これを除くと、営業利益は−300万円から−100万円へ。本業は200万円よくなりましたが、まだ赤字です。経常利益の改善800万円のうち、600万円は来期に繰り返さない収入です。
3段階目「実態」:お金で見る
現預金は5,000万円から3,500万円に減りました。月商で割ると、約3.0か月分から2.0か月分です。利益が黒字でもお金は1,500万円減っている。ここを見せるのは損益計算書ではなく、貸借対照表の前期比です。
4段階目「文脈」:局面を置く
期中に2名を採用し、人件費が増えています。この会社は「悪くなった」のではなく、「投資をして、回収はこれから」の局面です。局面を先に置くと、社長は数字を責められたと受け取らずに、次の話を聞けます。
5段階目「打ち手」:金額で並べる
| 優先 | 打ち手 | 効果(計算) | 難易度 | 担当 | 一歩目 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 粗利率を1ポイント上げる(仕入条件・値付け) | 2億1,000万円×1%=年210万円 | 中 | 社長 | 仕入額の上位3社に見積もりを依頼 |
| 2 | 売掛金の回収を60日→45日に縮める | 2億1,000万円÷365日×15日=約863万円(一度だけ手元に戻るお金) | 中 | 経理担当 | 回収の遅い取引先の上位5社を一覧にする |
| 3 | 採用した2名の売上の立ち上がりを月次で追う | 下の「良い」シナリオの差(年315万円) | 低 | 社長 | 2名の担当売上を月次の試算表と一緒に見る |
1は利益に、2はお金に効く打ち手です。利益の打ち手とお金の打ち手は分けて書くと、社長が混同せずに済みます。また、守りの打ち手(1・2)だけで終わらせず、伸ばす打ち手(3)を必ず1つ入れましょう。
来期の見通しは「1つの数字」でなく幅で出す
| シナリオ | 前提 | 来期の営業利益 |
|---|---|---|
| 悪い | 本業は今期のまま、補助金はなし | −100万円 |
| 中央 | 粗利率+1ポイント | +110万円(−100+210) |
| 良い | 中央+採用2名分で売上5%増(限界利益率30%と仮定) | +425万円(110+1,050万×30%) |
幅で出しておくと、次の面談は「今、3つのシナリオのどこにいるか」から始められます。1回の提案で終わらず、毎月の面談が前回の続きになります。
先生方から聞いた「提案の入口」
私たちはTaxelの開発で、税理士の先生方へのヒアリングを重ねてきました。提案の作り方について、次のような話を聞いています(いずれも1名ずつの証言です)。
- 入口は節税ではなく、資金繰り表や将来の見通しを作ること。融資や補助金の場面では「今のまま続ける」計画では通らず、しかも作るのは先生も社長も手間がかかる。だからこそ価値がある(2026年9月)。別の先生からも、同じ時期に独立に同じ趣旨の話を聞いています。
- 決算の説明の前に、つかみの1枚を置く。①このままだと何が起きるか、②どう考えるか、③何をするか、の順に1枚で示す(2026年6月)。
- 顧問料の範囲で、どこまで深く提案するか。月3万円前後の顧問料では、深い提案に時間をかけにくいという現実もある(2026年6月)。
3つ目は、先生方が提案をためらう理由として重要です。6段階のうち、1〜4段階目は決算書と試算表があれば機械的に出せます。先生の時間は、5〜6段階目で社長と話すことに使うのが、時間あたりの価値が最も高い使い方です。
線を引いておくこと
この記事の打ち手は、粗利・回収・売上といった経営の打ち手です。税務に関わる提案は、従来どおり先生ご自身の判断で行うものです。また、効果の金額は「前提を置いた試算」であることを、面談でも必ず添えましょう。前提を書いておけば、外れたときも「どの前提が違ったか」から次の話ができます。
まとめ:次の面談でやること3つ
- 経常利益の変化を「本業」と「一度きりの収入」に分ける。補助金・保険の解約返戻金・固定資産の売却益などを抜き出します。
- 打ち手を2つ、金額つきで持っていく。利益に効くものとお金に効くものを1つずつ。担当と一歩目まで書きましょう。
- 来期の見通しを、悪い・中央・良いの3本で示す。次の面談は、そのどこにいるかから始めましょう。
執筆
平澤 建(ひらさわ たける)
Taxel 代表。中小企業向けにKPI経営の伴走支援とEC運用支援を行っています。 税理士の先生方へのヒアリングを重ね、いただいた要望をそのまま機能にする形でTaxelを開発しています。
※ 本記事の例は仮定値であり、実在の会社を示すものではありません。ヒアリングの内容は各1名の証言で、先生の特定につながらないよう要約しています。税務に関する提案は、税理士の先生ご自身の判断によるものです。筆者は税理士ではありません。
打ち手を金額で出す作業を、Taxelが下ごしらえします
決算書から「正体・実態」までの分析と、打ち手の効果の試算をTaxelが用意します。Taxelの画面と使い方を、資料で無料でお送りします。